「生命の電場(DENBA)〜ゆりかごから永遠(とこしえ)へ」

登場人物

  • 神崎 悠斗(かんざき ゆうと):DENBA技術の応用研究者。30代後半。
  • 神崎 詩織(かんざき しおり):悠斗の妻。不妊治療の末、DENBA技術で妊娠・出産を経験。
  • 神崎 結(かんざき ゆい):悠斗と詩織の娘。現在5歳。
  • 佐倉 耕平(さくら こうへい):悠斗の大学時代の恩師であり、DENBA技術の生みの親。80代。

プロローグ:生命の鼓動

夜の静寂が包む研究室。青白い光の中で、悠斗は電位マットの上に置かれた小さな培養皿を見つめていた。その皿の中では、顕微鏡下で受精卵が微細な低周波の揺らぎ(DENBA空間)に包まれている。

「詩織…これが、僕たちの希望だ。」

悠斗は呟いた。妻の詩織は度重なる不妊治療で心を病みかけていたが、彼が開発に携わった「DENBA Life」と呼ばれるシステムが、体外受精胚移植の成功率を飛躍的に向上させたのだ。

数ヶ月後、結が生まれた。産声を聞いた瞬間、悠斗の目には、凍結保存されていた受精卵を活性化させたあの青白い電場がオーバーラップした。「結は、DENBAがくれた命だ」と、彼は密かに信じていた。

第1章:ゆりかごの中の希望

結は健やかに育った。悠斗の自宅には、常に「DENBA Health」のマットが敷かれており、結はその空間で遊んだり眠ったりした。

ある日、結が高熱を出した。詩織が慌てる中、悠斗は落ち着いて結をDENBA空間で寝かせ続けた。もちろん、DENBAは医療機器ではない。だが、その空間が持つ「水分子活性化」の効果は、結の自然治癒力を高めていると、悠斗は確信していた。

結はすぐに回復した。その生命力の強さに、詩織は「私たちの周りには、いつも目に見えない守り神がいるみたいね」と微笑んだ。それは、食品の鮮度を保つことから始まった技術が、今、娘の健康を支えているという事実だった。

第2章:旅路の果て、そして新たな使命

数年が経ち、悠斗は恩師である佐倉耕平の訃報を聞く。

通夜に向かった悠斗は、安置所に置かれた佐倉の姿を見て息を呑んだ。佐倉の顔は、まるで生きているかのように穏やかで、肌艶も生前と変わらないように見えた。ドライアイスの冷気はなく、代わりにご遺体の周りに「DENBA EVER」という名の特殊な装置が設置されていた。

それは、悠斗が佐倉と共に研究していた「遺体安置システム」の最終形だった。DENBA技術が水分子の変質を抑え、生前の姿を長期にわたって保ち続けることを可能にしたのだ。

悠斗は佐倉のそばに立ち、涙をこらえた。 「先生。あなたは、命の始まりに希望を与え、そして、最期の瞬間にも尊厳を与えた。この技術は、まさに『ゆりかごから墓場まで』、人間に寄り添うものになったのですね。」

安置所の控え室で、佐倉の家族が語り合う声が聞こえた。 「一週間も故人の顔色が変わらないなんて。ゆっくりとお別れができて、本当に感謝しているんです。」

悠斗は、生前の佐倉の言葉を思い出した。「DENBAは、命の時間を延ばす技術だ。始まりの命に力を与え、終わりの命に穏やかな時間を与える。究極のヒューマンテクノロジーだ。」

エピローグ:循環する命の電場

葬儀を終え、家に帰った悠斗は、すやすやと眠る結の寝顔を見つめた。

結の枕元には、小さなDENBAマットが置かれている。彼女が生まれた時の希望の光と、佐倉先生を包んでいた最後の穏やかな電場。

「結、お前が生まれた時、お前が笑う時、お前がいつか旅立つ時…」

悠斗は、その全てにDENBAの技術が関わっているという事実に、改めて感動と使命感を覚えた。

技術はただの道具ではない。それは、生命の時間に優しく寄り添い、希望と尊厳をもたらす、見えない「愛の電場」なのだ。

悠斗は静かに電源を入れ、部屋全体に広がる微かな振動に耳を澄ませた。娘の未来、人類の希望、そして循環する命の物語が、その青白い電場の中で静かに、そして力強く続いていくのを感じた

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